小さなホテルの物語

プロローグ

 人の世はさまざまな喜怒哀楽の連続で、そこに物語が生まれる。

 私は【邂逅】という言葉が好きだ。「めぐりあい」の意味である。私がホテルに勤務していた頃、よく旅の記念にといって持参のノートやサイン帳に一筆頼まれて、この文字をよく書いた。

 ホテルこそ邂逅に適した最大の場所である。二十年の間に数多くの人と出会った。そしてそこで数々の体験をした。時に喜び、悲しみ、笑い、怒り、泣いた。ここにその一部を披露してみよう。思いつくままに書くので流れがあるわけではない。決められたルールがあるわけでもない。その点をご理解いただいてお読みいただければ幸いである。